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Interview #03 安川元也(安川接骨院総院長、全国地域育整協会代理理事)/ 後編

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成長期の子どもたちの丈夫なカラダをつくるゼリー「BeinBein 骨+」。カルシウムの吸収に必要な栄養素を詰め込んだゼリーを“毎日のおやつ”にするメリット、丈夫な骨をつくるために必要な習慣について、商品を開発した田中啓之が子どもの育成に力を注いでいる「安川接骨院」総院長、全国地域育整教会代理理事の安川元也さんと対談しました。前編に続いて、後編をお届けします。

親子で一緒に食品のことを学ぶ時間を持つ豊かさ。

 

田中) 「全国地域育整協会」の活動について、さらに深掘りしてお伺いできたらと思います。行政と組んでどのようなことをされているのでしょうか?

 

安川) 親子で食品のことを学ぶイベントを開催しています。そうした時間を持つことで「今日からこれを食べようね」「こういう体操をしようね」と親子間のコミュニケーションが活性化されている様子を目にします。実際、行政のアンケートで「非常によかった」「あんまりよくなかった」「よくなかった」の項目内容に回答してもらうと、8〜9割くらいの方が「非常によかった」とリアクションしてくれて、とても楽しんでくれています。行政からも開催してみてとても有意義だったという声をいただいています。これまで、東京都立川市での予防活動は高齢者対象のものばかりだったんです。親子世代のものに対しては、なかなか予算が出なくて、前例がなくて。そうした状況だったので、まずは高齢者向けのイベントをやって、実績を積んでから子どもを対象としたイベントを開催しようと立ち上がりました。ようやく、そうした活動ができるようになりました。

田中) おっしゃる通り、とても有意義な取り組みですね。

安川) ありがとうございます。以来、立川市で子どもの活動をより積極的にやっていこうということになりました。今年は、東京都立川市で活動しているプロバスケットボール選手や地域のプロスポーツ選手、医療従事者をお招きしました。イベントに参加した子どもたちがすごく喜んでくれて。行政のニーズもとても高くて、手応えを感じています。

田中) そうした活動をやってみて、行政の方や先生が感じているメリットはどういった面に感じていらっしゃいますか?

 

 

行政と取り組んで、若い親子世代に発信していく。

 

安川) 今の若い世代は行政とあまり接点がないんです。たとえば、昔は何か催しものをするときに市報に掲載すると参加者が集まる時代でした。ところが、今の若い人たちは、市報を見る人が少ない。なので、行政が提供しているサービスを利用している子育て世代の親御さんの人口は少ないんです。だから、行政としては、お母さんたちとそういう接点を持つことができるイベント自体にとても喜んでくれます。最近はSNSで行政の活動を発信しているので、それをきっかけにイベントに参加してくださる方も少しずつ増えています。少子化が進むなかでも、若い親子世代に発信をしていく場を設けることで、人口の流入につながる可能性も考えられます。行政にはそういうことも期待されていると思いますね。

田中) 私は5年前に東京から兵庫に引っ越したのですが、子どもに対してのサービスが手厚いエリアに住みたいと思いました。行政がどのような取り組みをされているのかは住む場所を選ぶひとつのきっかけになりますよね。

安川) 子育て世代に向けて情報発信していたり、有益な活動をやっていたりする町の存在は大きいですよね。子育て世代に関心の高い行政の公園や学校のクオリティが高ければ、やっぱり、ここで子育てをしたいという想いが育まれるものですし。

田中) 最初にお話してくださった「子供のケガ予防」は行政にとっても、とても親和性が高いテーマですよね。

安川) 子どもの成長のために必要なことは、いろんな生活習慣病に対する取り組みでもあって。だから、子どもだけではなく、漏れ無く、家族に対する取り組みになる。子どもを育てている20代〜40代の人たちは、生活習慣病になる人は少なくて。子育てがある程度落ちついた、50〜60代くらいで撒いていた悪い種が実ってきて、生活習慣病を引き起こします。実は、子どものケアはお父さん、お母さんたちの生活習慣病の予防にもプラスになるいい機会なんです。

 

田中) 実際にイベントに参加されたお子さんやお母さんたちの琴線は、どういったところにあると思われますか?

安川) 子どもを対象とした教室でストレッチをレクチャーするのですが、子どものカラダが柔らかくなって、お母さんも一緒になってやることで自分のカラダも柔らかくなってすっきりした、という声を耳にすることが多いです。たとえば、「身長を伸ばしたい子、集まれ」というポジティブなメッセージを全面に押し出すと結構、来てくださる人が多い印象があります。「ケガ予防」という、ちょっとネガティブな言葉を全面に押し出すと、意外と集まりが悪かったりして。健康のことって、取り立てて身構えてしまうんですよ。ちゃんとしなきゃいけない、難しいという思いが先行して。そうではなくて、取り組むことがポジティブなことだということをいかにシンプルに、楽しく伝えるかが大切なんです。

田中) やはり、そうなんですね。僕らもポジティブなメッセージの伝え方を大事にしています。


健やかなカラダを導くために、ポジティブに伝えること。

 

安川) 情報の中立性はすごく大事なことですね。何か行動を起こす際にネガティブなもの、ポジティブなものがありますが、ネガティブというのはいわゆる「恐怖心」なんですよね。つまり、冷静さを失っているということ。やっぱり、冷静であることはすごく大切なことだし、自分たちが提供しているものが大切だと思ってもらうためには、ネガティブを煽らず、ポジティブを強調するのがいい。そうすると、行政の方からも喜んでもらえるので。

田中) もうひとつ健康に対して大切なことは、「継続すること」だと思っています。自分自身、そうした課題に向き合うこともあり、身をもって実感しています。

安川) そうですね。僕たちのなかでは、「行動をデザインする」ということを考えながらやっています。たとえば、健康であるためによき行動をとったときは、何かご褒美を与えるとか、達成感を持つことができるゲームを用意するとか。子どもたちの取り組みとしては、ゲーム感覚というのがすごい大事なことなんです。コンプリートすると皆から褒められて、コンプリートするとまたご褒美がもらえるみたいな。継続的に院に通ってもらうとき、実は治ってからの通院の方が大事だと思っているんです。日本の予防医療で一番進んでいるのが、歯科分野で。歯磨きは1日に2、3回するじゃないですか。でも、歯磨きのセルフケアを教えているところはあまり多くないと思うんですよ。もっというと、カラダのセルフケアについて教えているとこもあまりなくて。そこで、「僕らが1週間分のケアを教えます」というふうにして、サービスを理解して利用してもらっているんですけれども。やっぱり、継続してもらうためには、ここが楽しくなきゃだめなんですよね。

運動した日に印をつけるカード。日々の習慣を可視化することで、健やかな生活を導く。


田中) なるほど。「行動をデザインする」ということは課題です。「BeinBein 骨+」はリフィルケースを作って、それを冷蔵庫の扉に収納できるようにデザインしました。1日に2〜3回、冷蔵庫を開けるじゃないですか。そうしたときに、「BeinBein 骨+」が取り出しやすいポジションに置かれていることで、「食べる」というアクションが生まれると思うんです。子どもはカラダにとって骨が大事なことが頭で理解できても、毎日継続することは難しい。だから、盲目的に「おいしい」と感じられることがとても大切なのだと思います。

安川) おっしゃる通りですね。

BeinBeinが発行しているコツコツ通信。塗り絵で楽しく習慣化してほしいという想いが込められている。

 

 

食べものがもたらすメリットにフォーカスする。

 

田中) 少し話題が変わりますが、カルシウムの吸収に影響する飲みもののひとつとして、牛乳が取り上げられることがありますよね。最近、悪者のように扱われることもありますが実際のところはどうなのでしょうか?

 

安川) 牛乳はどの側面から見るかで変わってきます。リン酸が入っているので、カルシウムの吸収を阻害してしまうのではないか、というふうに言われているのですけれども。僕は違う意味で牛乳を飲もうよ、と育ち盛りの子どもたちに伝えています。実は二次性徴期の身長が伸びる世代は、「痩せ」の比率がすごく多くなるんです。痩せた分何が起こるのかというと、骨粗鬆症になるんです。要は成長、運動に対して、エネルギーが足りないことで骨粗鬆症になるんです。実は意外とエネルギーを摂取するということは大切なことなんです。僕がよく言うのは、牛乳というのは、万能の食品ではなく、メリットとデメリットがあるんだよ、と。でも、デメリットの議論ではなくて、メリットの議論をちゃんとしようじゃないかと。では、ジュース飲むのと、牛乳を飲むのとでは、どっちがいいかと言うとそれは牛乳ですよね。水飲むのと牛乳飲むのとでは、成長期の低体重にいいのは牛乳だよね、と。コップ1杯で、お茶碗一膳分のカロリーが摂れますしね。そういった意味で「牛乳を摂ろうよ」というメッセージを伝えています。僕たちが見ているスポーツ選手のほとんどが低体重です。低栄養、「痩せ」の人たちの方がケガは多くなります。成長痛や疲労骨折の割合も多く、ケガがなかなか治らないんです。

 

田中) なるほど。そういうリテラシーをどうやって上げていくかが重要ですね。

 

安川) 摂食って実はリスクなんです。何かを食べれば必ず何かのデメリットあるので、デメリットとメリットの整理をしてあげることが大切だと思っています。そのなかで、チョイスしてもらうことは、僕たちは指導の中でこだわっていることです。お母さんたちに栄養指導をやる中で、ただ情報を教えるというよりかは、提案することがとても大切なんです。「選択をする」ことは、お父さんお母さんたちの中ですごいエネルギーを使うことで。選んで間違っていたらどうしよう、という不安がある。なので、具体的な提案をしてあげるんです。こういう選択肢とこういう選択肢があるけど、どうですか? と問いかけてみる。そういうふうにしてあげるだけで全然違ったりするので。「この食品を食べようよ」と言われるよりも、「朝ごはんにこういうのやってみようよ」とか、「ヨーグルトのフルーツポンチを作ってみようよ」と言ってもらうだけで随分、行動が変わってくるんです。


田中) 先生のお話は栄養士さんや栄養管理士さんのような側面がありますね。こうしたお話がもっともっとたくさんの方に広まってくれるといいな、と思いました。

 

 

ひとりひとりの個性を認め、肯定する気持ちを広げていく。

 

安川) いろんな人に伝えたい想いはありますね。こうした活動をやっているのは「みんなを肯定したい」から。日本は否定と批判が多い国だと思っていて、それに輪をかけて、現代はSNS社会が発達して、簡単に人を否定する風潮が根付いてしまっているように思います。だから、殊更「肯定する」ことにエネルギーを使いたい。子どもの成長を促進させたいですし、お父さん、お母さんたちに余裕を作ってあげたい。肯定されることで得られる心の余裕が何においても必要だと僕は思います。だから、有益な情報は何かを論破するために使うのでなく、いろんなものを肯定するために扱っていきたい。情報発信することでみんなを肯定できるということが、すごい大事なことだと思います。

田中) 先生のおっしゃる通り、ひとりひとりの個性を認めてあげることが大切ですよね。

安川) たとえば、かけっこで1位になった子を認める。それだけでなく、ビリの子も認めていいんですよ。君はこんな長所があるから、胸を張っていいんだよ、と。君が不得意なものの中に何か得意なものがあって、その得意で1位をとったときに称賛してあげればいい。認めてあげることがやっぱり子育てのなかで大事なこと。「ケガの予防」の活動も、個人個人を認めてあげて、そうしたプラスの考え方を地域に広めていきたい。サプリメントも外食も認めてあげることが、予防につながると思っています。予防は「次の医療の最先端」とずっと言われ続けて20年間。ずっと、頭でっかちなままで止まっているんですよ。そうではなくて、地域のなかに「肯定」が溢れないと、本当の予防というのができないのではないかと思っています。 

 

 

安川 元也
安川接骨院総院長、全国地域育整協会代理理事。「子供のロコモ予防、子供のケガ予防」をテーマに教育機関、公的機関で講師を勤め、行政や教育機関、競業連盟と共に子供のスポーツ障害の予防に取り組む。また、世界水泳、アジア水泳、日本選手権メダリストやジュニア選抜合宿のトレーナーも兼任している。


田中啓之
〈sikksakk〉事業部代表、「Octroll」株式会社代表。大手商社で食料品の新規開発をアジア・オセアニア各国にて主導。2016年にビジネスパートナーのノルウェー人Frode Bohan氏と出会い、北欧の自然と共存する生き方に感銘を受ける。北欧の高度な研究によるエビデンスに基づいた自然由来の素材や日本の優れた素材を世界に届ける活動をしている。
写真:Shin Hamada
文:Seika Yajima